
パール・ジャムのエディ・ヴェダー、初のソロ初来日公演のレポートと写真が到着
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Pearl Jam(パール・ジャム)のフロントマンであるEddie Vedder(エディ・ヴェダー)が、キャリア初となるソロ来日公演を2026年4月14日から名古屋・大阪・京都・東京にて行った。このレポートが公開となった。
ライヴ・レポート
パール・ジャムの最後の来日から23年、ソロ・アーティストとして日本に帰ってきてくれたエディ・ヴェダーが、4公演から成るツアー“AN EVENING WITH EDDIE VEDDER”を、4月20日の東京ガーデンシアター公演で締め括った。毎回セットを大きく変えて計45曲を披露。日本とエディ/パール・ジャムの絆を再構築し、未来に希望をつなぐ意義深い旅になったと思う。
では、新譜を発表したわけでもないのにエディはなぜ今日本にやってきたのか? これは想像の域を出ないのだが、愛してやまないシカゴ・カブスを追いかけて一年前にMLB東京シリーズ2025の観戦に訪れた際、恐らく「日本でライヴをやろう」と思わせる何かが起きたのだろう。なぜって今回の彼の行先は日本のみ。昨年5月にツアーを終えたパール・ジャムは目下ドラマー不在とあって当分動く気配はない。ソロ公演も、今年ほかに予定されているのは自ら主宰する9月のオハナ・フェスティバルだけだ。
となると「日本に行くしかない!」と考えるのがファンの自然なリアクションであり、U2のボノが与えた‟グランジ版グレートフル・デッド”の名に違わず、途方もない数のファンが世界中から集結。毎夜早くから会場近辺に集ってウォームアップし、開演すればとにかく歌いまくって、移動式のフェスのような様相を呈した。そんな雰囲気に感化されて日本人ファンの声も自然に大きくなり、海外でパール・ジャム/エディのライヴを観る気分を味わえたのではないかと思う。
肝心のセットリストは、パール・ジャムの曲(「Drifting」や「Around the Bend」といったレア曲を多数含む)、ソロ名義の曲、エディが心の拠り所とする様々なアーティストたちのカヴァー曲で構成。その日しかプレイしない曲が必ず1曲以上あること(今宵はパール・ジャムの「Lukin」とボブ・ディランの「Forever Young」)、カヴァー曲からスタートしたこと、パール・ジャムの「Porch」で本編を締め括ったこと、ファースト・アンコールのラストに「Hard Sun」(映画『イントゥ・ザ・ワイルド』のサントラのために録音したカナダ人シンガー・ソングライターのインディオことゴードン・ピーターソンの曲)を配置したことを除いて、日々大きく入れ替わった。
また今回は盛りだくさんなジャパニーズ・テイストのグッズを用意すると共に、メモ片手に日本語のMCに果敢にチャレンジ。日本絡みの話題に触れたり(ステージにはカブスの今永昇太及び鈴木誠也選手のユニフォームも飾られていた)、リクエストに応じたりと積極的にオーディエンスとコミュニケートし、ソロならではのインティメートな空気感を終始キープしながら、微妙にモードの異なる4つのショウをプレイ。長年の不在を詫びるかのようにバンドの曲に重点を置いた14日の名古屋公演、ボブ・ディランの「Masters of War」をカヴァーするなどメッセージ性を打ち出した16日の大阪公演、緩さとテンションのバランスが絶妙だった17日の京都公演を経て、いよいよ東京公演の日を迎えたわけだ。
さすがに日本人率はアップしたものの、引き続きインターナショナルな満場のオーディエンスが待ち受ける中、エディが現れ、微笑んで一礼する。ステージには、ラグの上にモニター、スピーカー、ギター、オープンリールのテープデッキなどなどを配置した、居心地のいい部屋のようなスペースが確保され、その中央で椅子に座って歌う今回のショウは、基本的には弾き語り。だからといって、着席してゆるりと楽しむタイプではもちろんない。彼の姿が見えるなりオーディエンスは総立ち。
曲ごとにかき鳴らすのがアコギだろうとマンドリンだろうとエレクトリック・ギターだろうと、時にドラム代わりに激しく足を踏み鳴らしながら歌うエディは常にロックンロール・シンガーであり、その存在感で広い会場を隅々まで満たし、パール・ジャムの曲をプレイしていてもバンドの不在を感じさせない。エディ・ヴェダーはエディ・ヴェダーであり、同時にエディ・ヴェダーはパール・ジャムなのだから。
そんな彼は名古屋と同じ3曲――ピンク・フロイドの「Brain Damage」、パール・ジャムの「Sometimes」、ウォーレン・ジヴォンの「Keep Me in Your Heart」――で最終公演をスタート。ここまでカヴァーに関しては1曲も重複していなかったのだが、今日は最初の3公演のベスト/集大成のような選曲が成されていることが徐々に明らかになっていく。
そして3曲を終えた時点で早速「日本でライヴをするのは随分久しぶりです。ここに来れて本当にうれしいです。そしてみなさんがここにいてくれることが何よりもうれしい」と日本語で挨拶。その言葉を裏打ちするように、再会をひとつのテーマに掲げる「Elderly Woman Behind the Counter in a Small Town」へ。“あなたが戻って来るとは夢にも思わなかった。でもこうしてここにあなたと私がいる”と、我々の気持ちを曲の主人公が代弁してくれる。
さらにザ・ビートルズの「You’ve Got to Hide Your Love Away」などが続き、「I Am Mine」を意外な人(!)に捧げる。「今まで35年間サルに曲を捧げたことはなかったけど、パンチのために歌います」と。実は公演の合間に市川市動植物園を訪れていたエディは、群れから孤立しながら逞しく生きるパンチ君に、個の不可侵性という定番テーマを扱う曲が似合うと考えたのかもしれない。
次のセクションを紹介するMCも日本語。「映画『イントゥ・ザ・ワイルド』のために作ったアルバムからの曲をやります」と、3曲を聞かせてくれる。今回のツアーでは、ソロの曲に関しては同作にフォーカスを絞っていたエディ、毎晩たっぷり時間をとることで自身の課外活動の出発点となったこれらの曲への思い入れを伝えていた。そして同作のアコースティック路線を引き継ぐ形で、お待ちかねの「Better Man」が登場。バンドでプレイする時にもしばしば引用する、ザ・ビートの「Save It For Later」をアウトロに加えたエクステンデッド・ヴァージョンだ。
このあとは毎晩披露していたパール・ジャムの曲がしばし続く。彼曰く「人生の儚さと個々の瞬間の尊さ」をテーマにした「Just Breathe」の美しさはアコギ弾き語りであるがゆえに際立っていたが、やはり一際大きな歓声に迎え入れられたのは、究極のパール・ジャム・アンセムのひとつ「Corduroy」だった。成功の頂点に立ちながら、名声を拒絶し自らの尊厳を優先したエディの誓いの言葉の説得力は、曲の誕生から30年経った今も全く薄れていない。
と、ここでまた彼はトーンを切り替えて、ギター・テックによる伴奏で、カヴァーを1曲挿む。ソロ活動における重要なコラボレーターとなった元ザ・フレイムズのグレン・ハンサードが2012年に発表した、「Song of Good Hope」だ。「こういう混沌とした時期に自分の傍に置いている曲を歌いたい。音楽って時として救命着みたいな役割を果たして命を守ってくれるからね」とのMC通り、絶望的な状況にある人に救いの手を差し伸べているグレンの言葉はまさに救命着。
他方、次に控えていた「Long Way」(最新ソロ・アルバム『Earthling』より)ではテープデッキにバッキングを委ね、小脇に数冊の本を抱えて、歌いながらフロアに降りてくる。大阪でも紹介したその本は、村田沙耶香の小説『地球星人』。タイトルの英語訳が『Earthlings』であることから、「Long Way」にも参加しているジョシュ・クリングホッファーの勧めで手に取り、すっかり惚れ込んだのだとか。「彼女を知っている人がいたらよろしく伝えて欲しい」と言いながら本を配り、もみくちゃにされながら客席の間を練り歩いてステージに戻ってくると、「Lukin」と「Porch」でクライマックスを走り抜けた。
この間、客席からは「エディかっこいい!」「帰って来てくれてありがとー」「うれしいよ!」といった日本語の声援が飛び交い、ニコニコと頷いていたエディだが、そもそも彼はどんな気持ちで今回のツアーに臨んだのだろう?何しろ23年ぶり、来てはみたもののどんな結果になるのか本人にも見当がつかなかったのではないかと思う。でも初日名古屋公演の冒頭で、しばらく鳴りやまなかった拍手と声援を浴びた時の表情からは、純粋な驚きが読み取れた気がした。
大阪でも京都でも然りで、その驚きは安心感と喜びに変わり、本当にうれしそうに歌い続け、我々も声を枯らして歌い、いつの間にか長い空白をお互いに忘れてしまう――というプロセスを全公演地で繰り返してきた。その末に辿り着いた東京公演では、ごく自然体で、音楽的完成度の極めて高いパフォーマンスを披露してくれたエディ。ファースト・アンコールの冒頭、拍手が鳴りやむのを待ってから「ライヴを終える前に今強く感じていることを伝えたい」と話し始める。
「記憶に深く刻まれる体験をさせてくれて、ここにいるみんなに感謝したい。ほかに行きたい場所なんかなかった。ここに来れたらそれで良かった。音楽を分かち合うため、君たちのためにプレイできて本当に光栄だよ」と。さらに彼は、今日身近な人物の訃報を受け取ったことを明かし、“何があろうと自分は屈しない”と宣言するトム・ペティの「I Won’t Back Down」を故人に捧げた。
ご存知のようにエディとジル夫人は表皮水疱症という難病の治療研究を支える活動を精力的に行なっているのだが、ふたりが親しくしていた患者の1人が亡くなったのだという。つまり今日のエディにとって、我々と同じ時間と空間を共有することはいつも以上に意義深かったのだろうし、ガンを患っていたウォーレンが生前最後に録音した「Keep Me in Your Heart」然り、「Song of Good Hope」然り、祈りや誓いのような趣向の曲が目立つ今セットも、新たな意味を帯びてくる。
そして自然の偉大さを讃える「Hard Sun」を経て、セカンド・アンコールでステージに戻ってきたエディは、「もう少し歌ってもいいかな?」と我々に確かめると、例外的に2曲のカヴァー――ボブ・ディランがボブ・ディランが息子の幸せを願って綴った「Forever Young」と説明無用のニール・ヤングの「Rockin’ in the Free World」でフィナーレを飾った。
後者は昨年3月15日、ジャック・ホワイトの東京公演に飛び入りして一緒に歌った曲であり、2003年3月6日のパール・ジャムのジャパン・ツアー最終日に、名古屋公会堂で最後にプレイした曲とあって、どことなく点と点がつながっていくように感じられる。冷戦が終わろうとしていた世界の混沌を背景に、共和党政権下の米国社会の荒廃を嘆くオリジナルが生まれたのは1989年。そんな中でフリーダムをいかに守り抜くのかという問いを、当時以上の混沌と不条理が支配する2026年を生きる我々に突きつけたエディは、最後にもう一度「また君たちと再会できる日が待ち切れないよ」と告げて、名残り惜しそうに去って行った。次は23年後にならないことを祈りつつ、大阪では「バンドと帰ってきたい」と恐らく誰もが一番聞きたかった言葉も口にした彼を信じて、再会を待ちたい。
文:新谷洋子
■商品情報
2026年4月10日(金)発売
エディ・ヴェダー『アースリング(ジャパン・ツアー・エディション)』
2CD: UICY-80733/4 /4,400円(税込)/日本独自企画2CD/SHM-CD仕様/ポスター封入
パール・ジャム『武道館ライヴ!』
2CD: UICY-80735/6/4,400円(税込)/SHM-CD仕様